〇はじめに
社内報と言えば、社会人のみなさんであれば、一度くらいは目にしたことがあるものなのではないでしょうか?
ときに凝った社内報や、面白いネタを載せた社内報を作る会社もあります。ですが、毎月退屈な職場日誌やインタビュー記事だけが送られてくる……と、うんざりしている人もいるかもしれません。
逆に、社内報を作る立場になって、「これは意外と作るの大変だよ」「ネタがない」「社内報づくりのコツを教えてほしい」「オウンドメディアとどう連携するの?」……と、嘆いていらっしゃる方もいるかもしれませんね。
社内報というのは、文字通り企業が社内向けに出す広報や冊子のことですが、昨今では、これにひとネタやひと工夫を加えることによって、コーポレートブランディングにつなげたり、離職率を下げる、求職者数を増やすといった実績を上げている会社もあります。
また、近年ではウェブ版の社内報を作成したり、会社外にむかって開かれた「誰でも読める」オープン社内報と呼ばれるものを作っているケースもあります。
……以下のエッセイでは、社内報の意義を探るとともに、キャッチーな社内報や良いネタを扱っている社内報をつくるコツなどもまとめています。
社内報と言えば、読んでもつまらないもの。退屈なもの。また社内報を作る側にとっては作るのが大変なだけで、フィードバックにつながらないもの。と考えている方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、まずは肩の力を抜いてこの記事を読んでみてください。社員に読まれる社内報を作るコツや、コーポレートブランディングに向けたヒント、新鮮なネタがなく失敗する社内報の例などを解説しています。
それではみなさんを社内報作りの世界へとご案内しましょう。
〇1.社内報の目的とは? 何のためにあるの? 誰のためにあるの?
社内報は、時代とともに大きく姿を変えてきました。
かつては一枚ものの紙にまとめられ、配布されるだけの存在でしたが、次第に冊子形式が主流となり、最近ではコーポレートサイトやオウンドメディアに掲載されたり、社内メールで配布されたりするようになってきています。さらに電子化の流れのなかで、スマホやタブレットから気軽に閲覧できる形の社内報なども増えてきています。
その役割を考えると、社内報には大きく二つの方向性があります。
一つは、社員に社風を浸透させて一体感を育てること。これは「社員や社員の家族」のために作られるもので、働く人たちのモチベーションや帰属意識を高める役割を果たします。
もう一つは、企業の姿を外部に向けて発信する「コーポレートブランディング」。求職者や取引先、株主といったステークホルダーに向けて「この会社は信頼できる」と感じてもらうことを目的としています。
つまり、社内報は単なる「お知らせ」や「報告書」ではなく、会社そのものの文化や雰囲気を形づくる大事なメディアなのです。
現在の社内報にはいくつかの種類があります。
まず、昔ながらの紙の社内報。手に取って読める安心感や保存性があり、家族にも気軽に見せられるのが特徴です。とくに製造業など現場の社員が多い会社では、紙の形が根強い人気を持っています。
次に、メールで配布される社内報。日々の業務で必ず使うツールで届くため、確実に目に入るという強みがあります。速報性が高く、イベント告知や人事情報など、タイムリーに伝えたい情報を発信するのに向いています。
さらに、ウェブサイトやオウンドメディアで公開される社内報も増えています。こちらは動画や画像を活用できるため、読み手にとって分かりやすく、企業の外部広報とも連動させやすいのが魅力です。検索性も高く、過去記事をすぐに参照できるという利点もあります。
また、最近ではスマホアプリで読める社内報も登場しています。場所や時間を選ばずにアクセスできるので、移動の合間や休憩時間に気軽に読めるのが特徴です。プッシュ通知を活用すれば、社員が新着記事や今話題のネタをすぐにチェックできるのも大きなメリットでしょう。
また、「社内報に何どこまで書くのか?」という点も重要です。以前は、情報面やネタの面では会社の業績や戦略といった事柄の共有は限定的でしたが、近年は、企画やデータなどを積極的に掲載する企業が増えています。
このように、社内報は「何のためにあるのか」「誰のためにあるのか」という問いに、複数の答えを持っています。時代や会社の方針に応じてその形は変わりますが、共通しているのは「人と会社をつなぐ架け橋」であるということ。どの形を選ぶにしても、その本質を忘れないことが大切です。
〇2.企業風土を浸透させるインフラとしての社内報
社内報をただの情報媒体ととらえるのではなく、企業の「インフラ」と考えてみると、その役割がぐっとはっきりします。インフラとは道路や水道のように、誰もが日常的に使う基盤のこと。社内報もまた、社員同士をつなぎ、会社の空気を伝え、共通の価値観を育てるための基盤だと言えるのです。
まず、媒体の違いによって社員が受ける印象も変わります。
紙の社内報は、社内の休憩室や受付など、目立つ場所に置いておくと良いでしょう。そうすると、自然と社員の目に入ります。ぱらぱらと手に取りやすく、家族に見せられる安心感もあります。
一方で、電子化された社内報は、スマホやパソコンに慣れた世代にとっては親しみやすく、移動時間や隙間時間に気軽に読めるのが魅力です。こうした特性を考えると、社内報はまさにコミュニケーションのための「生活インフラ」といえるでしょう。
社内報の価値を整理すると、大きく「行動目標」としての価値と「結果目標」としての価値に分けられます。
行動目標としての価値は、発行そのものを続けることで生まれます。
例えば、毎月同じ日に社内報を発行する、といったルールです。給料日やボーナス支給日に合わせて配布すれば、自然と読まれる機会も増えます。年度初めや年度末に号外を出すのも効果的です。
こうした仕組みが「読まれる習慣」を作り、社員の目に触れやすくするのです。そのためには、ただ情報を載せるだけではなく、社員の声や現場の小さなエピソードを反映させることも欠かせません。「自分のことが載っている」と感じられる社内報は、つい手に取りたくなるものです。
一方で、結果目標としての価値はもっと数字に近いものです。
たとえば、人事面では「離職率を下げる」「採用応募者を増やす」といった指標が考えられます。あるいは、経営戦略やコーポレートブランディングと絡めて、「売り上げを伸ばす」ことにつながる場合もあります。
もちろん、こうした成果は社内報だけの効果とは言えません。しかし、社風を浸透させたり、社員の結束を高めたりすることで、長期的には確実に影響を与えます。そのためにも、読者アンケートやアクセス数、掲載されたネタの良し悪しなど、社員からのフィードバックをしっかり分析することが大切です。
まとめると、行動目標と結果目標の両方を意識しておくことが、社内報をインフラとして活かすポイントになります。発行担当者の意識も高まり、単発で終わるのではなく、一貫性のある社内報を作り続けることができます。リモートワークや多様な働き方が広がる現在では、社内報は単なる情報伝達手段ではなく、企業風土を浸透させる基盤としてこれまで以上に大きな役割を持っているのです。
〇3.社内報とオウンドメディアを統合する──オープン社内報
近年、「オープン社内報」と呼ばれる新しいスタイルが広がっています。これは、従来のように社内だけで配布するものではなく、コーポレートサイトやオウンドメディアなどに掲載され、誰でも自由に読める形式の社内報です。いわば、インターネット上における「企業の顔」のような存在であり、社員同士の連携を強めるだけでなく、ステークホルダーや求職者に対して会社の考え方や文化を発信できるのが特徴です。
基本的な役割は従来の社内報と大きくは変わりませんが、メディアとしてデジタル化されたことで大きな利点も生まれました。
たとえば、記事内のキーワードを検索したり、過去の記事と比較してデータ分析を行ったりといったことが簡単にできます。また、スマホやタブレットに慣れた世代にとっては親しみやすく、場所を選ばずにアクセスできるのも強みです。デザイン面でも優れたものになっています。……こうした流れは、企業の広報や人事のあり方そのものにも変化をもたらしつつあります。
オープン社内報には、次のようなメリットが考えられます。
(1)ステークホルダーへの社風のアピール:取引先や顧客、投資家に向けて、会社の姿勢や取り組みをわかりやすく伝えることで信頼感を高められます。
(2)社内の風通しを良くする:公開されていることで社員一人ひとりが「見られている意識」を持ちやすくなり、発言や取り組みへの責任感が強まります。結果として、社内の雰囲気が明るくなり、意識も高まりやすくなります。
(3)求職者へのアピール:実際に働いている社員の声や活動、考え方が見えることで、「この会社で働いてみたい」という気持ちを持ってもらいやすくなります。採用広報としても大きな効果が期待できます。
また、記事に「いいね」やコメント機能をつけると、社内外からの評価をダイレクトに受け取ることができます。こうしたフィードバックによって、自社の考え方がどのように受け止められているのかを客観的に判断しやすくなり、企業の方向性を見直す際の材料にもなります。広告やプレスリリースのような「外向きの広報」とは違った、温度感のある発信手段として位置づけられることも大きな魅力なわけです。
さらに、社内報を外注するという選択肢もあります。すべてを制作会社にまかせる方法もあれば、デザインやデータ分析といった一部だけを専門の会社に依頼する方法もあります。外注を活用することで、より質の高いコンテンツを効率よく生み出せますし、社内では得られないネタや視点を取り入れることもできます。
このように、オープン社内報は単なる「情報共有ツール」を超えて、社内外に企業の魅力を広く伝える重要な存在となりつつあります。社員のモチベーションを高めるだけでなく、会社の未来を一緒に描いていくための強力なインフラとして活用していくことが求められています。
〇4.キャッチーな社内報を作るコツ
キャッチーな社内報を作るためには、やはりコツが必要です。
「キャッチー」という言葉は、ともすれば「目を引く」「派手」といった意味にとらえられがちですが、実際にはもっとシンプルで本質的なものです。キャッチーとは「記憶に残ること」。つまり、読者の心に刺さる社内報をつくることなのです。実は、人の記憶に残る要素にはさまざまなものがあります。
まず「共感」。社員が「自分のことだ」と感じられる記事は、自然に読了率が高まります。身近な体験や社員の声を記事に反映させることで、社内報は単なる情報伝達手段ではなく「共感の場」になっていきます。
次に「驚き」。思わず「へえ」と声が出るような意外な事実やデータを盛り込むと、記事の印象は一気に強まります。普段は見えにくい現場の数字や、他社との比較などを掲載することも効果的です。
「笑い」も重要です。ユーモアのある文章やネタっぽいイラストが少し入るだけで、読者は肩の力を抜いて文章を読み進められます。堅い内容の中にこそ、ほんの小さな笑いが効果を発揮します。
最後に「美しさ」。写真やレイアウトといったデザイン面での美しさはもちろん、文章そのもののリズムや言葉選びも含まれます。「読んで心地よい」と感じること自体が、キャッチーさにつながります。
こうした感情のフックを意識したうえで、さらにいくつかの工夫を取り入れると社内報はぐっと魅力的になります。
たとえばタイトルや見出しです。タイトルは記事の「顔」であり、読者を導く案内人でもあります。問いかけ型のタイトル「この一年で、私たちは何を変えられたか?」などは、読者の思考を誘います。比喩型のタイトル「会社は大きな船、社内報はその羅針盤」などは、抽象的なテーマをわかりやすく伝えられます。数字型のタイトル「3つのポイントで見る働き方改革」などは、読者に「短時間で理解できそう」という印象を与えます。
また、語り口も大切です。専門的すぎず、誰にでも読みやすいやさしい文章を心がけましょう。世代間の知識差が出やすい用語やあるあるネタについては、注釈や補足を入れてあげると安心です。
さらに、社内や社外のイベント、季節感を盛り込むことも効果的です。社員旅行や新入社員の歓迎会といった話題、年末年始のご挨拶などは、読者に「自分ごと」として受け止められやすくなります。
デザインやレイアウトも見逃せません。写真やイラスト、グラフを活用すれば、文章を読むのが得意でない社員でも自然と記事に引き込まれます。
そして最後に、読者参加型の工夫です。社員インタビューや投稿企画を取り入れると、自分の言葉が社内報に載ったという体験が生まれ、読まれる理由につながります。
このように、キャッチーな社内報とは特別な仕掛けを加えることではなく、読者の心に小さなフックをつくること。インターネットやデジタルツールを活用すれば、インタラクティブで双方向的な発信も可能です。読んで終わりではなく、思わず語りたくなるような社内報を目指すことが、キャッチーさの核心だと言えるでしょう。
〇5.こんな社内報は読んでもらえない!
せっかく時間と労力をかけて作った社内報でも、読まれなければ意味がありません。
……紙の時代には「配られても机の上に置きっぱなし」ということがよくありました。現在はITメディアの普及によって社員が社内報に触れるハードルは低くなっていますが、それでも「読んでもらえない社内報」にはいくつかの共通点があります。ここではその典型例を紹介します。
まず、「誰に向けて書いているのか」が曖昧な社内報です。読み手が想定されていない文章は、誰の心にも残りません。部署ごとに求められる情報は異なりますし、役職やキャリアの長さによって関心事も変わります。「この号は若手社員に」「この特集はマネジメント層に」といったように、ターゲットをはっきりさせることが大切です。
次に、社内用語やテンプレート的な言い回しが多すぎる社内報です。「ご安全に」「〇〇活動の一環として」といった言葉は、形式的に見えるだけで心に届きにくいものです。読者が「自分の言葉」として受け止められるように、できるだけ平易で具体的な表現を意識しましょう。
また、長すぎて重いコンテンツも敬遠されます。スマホで読む場合はスクロール疲れを起こしやすく、PCで読んでも情報過多になると途中で離脱してしまいます。記事全体に一本筋のトーンを通し、話題やネタをあちこちに飛ばさない工夫が必要です。
一方通行の語り口も問題です。読者の声が一切反映されない社内報は、どうしても堅苦しく感じられてしまいます。ウェブやアプリで配信するなら、コメント欄や「いいね」機能を設けると良いでしょう。社員同士が気軽に反応できる場を作ることで、社内報は双方向のメディアへと成長します。
さらに、更新頻度やタイミングのズレも「読まれない社内報」の特徴です。給料日前後やイベント直後など、社員の関心が高まる時期を逃すと効果は半減します。社内報は企業の「リズム」に合わせて出すことがポイントになります。
最後に、顔が見えない社内報も読まれにくいものです。誰が書いているのかが分からないと、読者は距離を感じてしまいます。編集者の一言を添えた「編集後記」や「今月の編集部より」といったコーナーを作ることで、社内報がぐっと身近になります。また、社員の声を掲載するなど、読者参加の工夫をすると自然と親近感が増していきます。
まとめると、「読まれない社内報」はターゲットが見えず、言葉が硬く、重く、一方通行で、タイミングを外し、顔も見えない、といったものだと言えます。……逆に言えば、これらを改善するだけで社内報は格段に読みやすくなります。社内報づくりは「何を書くか」だけでなく「どう読まれるか」を意識することが大切なのです。
〇6.社内報はどの部署にヒットさせるかがカギになる
社内報を社内向けのコンテンツと考えるとき、「誰に読まれるのか」という視点はとても大切です。読者を意識しないまま記事を作ってしまうと、全体がぼやけてしまい、せっかくの大切な情報が伝わらないこともあります。そこで、部署ごとにターゲットを明確にしてみましょう。
まず、人事担当者に読まれることを意識する場合です。どのような人材を集めたいのかを共有できれば、採用活動はぐっと進めやすくなります。社内報で各部署の特徴や空気感をていねいに解説する記事を書けば、人事担当者にとっては「会社はこんな人材を求めている」というヴィジョンを見つけやすくなります。
営業担当者に読まれることを意識するなら、社風や現在の社内の雰囲気を伝える記事が効果的です。さらに、新商品や開発中の商品についての情報を発信すれば、営業活動の幅を広げられます。ただし、オープン社内報で公開する場合には、社外秘の情報をうっかり掲載しないよう注意が必要です。
次に、広報担当者に読ませたい場合です。各部署の取り組みや日常の様子を記事としてまとめると、ステークホルダーや顧客層に響く広告づくりがしやすくなります。開発中の製品を図や写真つきで紹介すれば、今後の広報戦略のヒントにもなります。
生産ラインに従事する社員に読んでもらうことも重要です。自分の工程が会社の戦略にどう貢献しているのかを知ると、仕事への誇りや意識が高まります。たとえば製品の設計思想や完成イメージを伝えれば、自分が手にしている部品の役割がしっかりと把握でき、工程でのミスを減らす効果も期待できます。
企画・開発部門をターゲットにする場合には、市場調査の結果や会社の理念を記事に盛り込みましょう。具体的なサービスや商品の開発方針が明確になり、新製品づくりがスムーズになります。また、既存の製品がどのように評価されているかを知れば、アフターケアの工夫にも役立ちます。
このように、部署ごとの関心や役割を意識して社内報を作れば、社員の勤労意識を高めるだけでなく、広報や商品開発の方向性を明確にし、最終的には会社の業績向上へとつなげることができます。「誰に読んでもらうのか」を意識することは、社内報づくりのカギと言えるのです。
〇7.参加型コンテンツの力で社員を巻き込め!
社内報を「ただ読むだけ」の存在から「みなで語る場」へと変えていくこと──これが参加型コンテンツの力です。社員が自分の声を発する場があることで、社内報は単なる情報伝達の手段ではなく、企業文化を内側から育てるインフラにもなり、社員は自分の言葉が紹介されていることで、「自分ごと」と思えるようになります。
参加型コンテンツには、いくつかの形があります。
まず取り入れやすいのがインタビュー記事です。新人の抱負やベテラン社員の経験談を取り上げたり、部署ごとに持ち回りでコラムを書く形式は、社員にとって大きなモチベーションになります。「会社の顔」として紹介されることで、誇りややる気が生まれるからです。
次に投稿コーナー。たとえば「今月のひとこと」「私の仕事のこだわり」といった短いコメントや川柳などを募集すれば、気軽に参加できる入り口になります。そこから読者が「ちょっと自分も書いてみよう」と思う雰囲気が広がります。
投票企画も効果的です。「今月の社内MVP」や「人気の商品ランキング」を投票する仕組みは、社員全員がひとつの輪に入る感覚を生み出します。そして、自分たちの商品やサービスを共に育てているという意識を自然と持ちやすくなるのです。
さらに、写真や動画の投稿もおすすめです。社内イベントのスナップや日常のちょっとした一コマを共有すれば、社風に温かみが加わります。文章よりも直感的に伝わる映像表現は、全社的な一体感を生みやすい効果があります。
オープン社内報の場合は、コメントやリアクション機能を活用するのも有効です。読者がその場で「いいね」を押したり、ちょっとした感想を残せる仕組みがあれば、現場の空気感を可視化しやすくします。
こうした参加型の仕組みには、社員を巻き込み育てるという効果があります。従業員エンゲージメントを高め、部署間の相互理解を促し、離職率を下げることにもつながります。「自分の言葉が社内報に載る」経験は、承認欲求と帰属意識を満たす大切な瞬間になるのです。また、部署ごとにしかわからないネタや知識を共有する場にもなるため、ナレッジマネジメントの観点からも価値があります。
もちろん、参加を促す工夫も必要です。編集部が「聞き手」となって社員の声を引き出すことがポイントです。社内報アプリに投稿フォームを用意したり、社員の書く記事にたいして編集サポートを行ったりすれば参加のハードルは下がります。匿名投稿を取り入れることで、普段は声を出しにくい社員の意見も拾いやすくなるでしょう。
ただし、注意点もあります。とくにオープン社内報では、安易な批判や誹謗中傷を防ぐためのガイドラインづくりが欠かせません。また、投稿内容が特定の部署や世代に偏らないようにバランスを意識することも大切です。
参加型コンテンツは、社内報を一方通行の「伝達」から、双方向の「共有」へと進化させます。その仕組みをうまく整えることで、社員の声は企業の大きな力へと変わっていくのです。
〇8.社内報作りの失敗しない運営体制
社内報を長く続けていくためには、記事そのものの質だけでなく、運営体制をしっかり整えることが大切です。せっかく良い記事を用意しても、体制が不安定だと継続が難しくなったり、内容に一貫性がなくなってしまいます。そこでここでは、社内報を失敗させないための運営体制について、いくつかの工夫を紹介します。
まず大前提として、編集部は社内文化の「守り手」であるという意識を持つことが重要です。社内報は単なる情報伝達ツールではなく、企業にとっての語り部であり、文化を伝える役割を担っています。そのためには、企画・取材・編集・配信・フィードバック収集といった流れを明確にして、ガイドラインを定めておくと安心です。これがあるだけで、運営チームが入れ替わったときにもスムーズに引き継ぎができます。
理想的な編集チームを作るためには、一人に多くの作業を背負わせないことが大切です。たとえば、編集担当者は文章の校正やトーンの統一を行い、読みやすさを高めます。デザイン担当者は、誌面や画面の構成やレイアウトを考えるだけでなく、その意図を編集担当に伝えることも役割のひとつです。広報担当者はSNSやウェブの動向をチェックし、流行をつかんで発信に生かします。さらに、フィードバック担当者は読了率やコメント数、アンケート結果などを分析し、次号に改善点を反映させていきます。役割を明確にすることで、チーム全体が効率よく動けるようになるのです。
運営のリズムも重要です。社内報は社内の暦に合わせて発行するのが基本で、給料日前後や大きなイベントの直後など、読者が「今読みたい」と思うタイミングを逃さないことが大切です。また、発行スケジュールは一定に保つ方が効果的でしょう。不定期に出すよりも、毎月決まった日や年度の節目に出す方が、社員にとって親しみが増します。
外部パートナーとの連携についても考えておきましょう。デザインやデータ分析を外注する場合には、社内の声をきちんとまとめて伝えることが必要です。うっかり社外秘を公開しないように注意するのはもちろんのこと、編集方針を共有しておくことが成功のカギとなります。社内編集者と外部編集者の役割をあらかじめ分けておくと、後々のトラブルを防ぐことができます。
最後に、失敗を防ぐためのチェックポイントを整理しておきましょう。企画が特定の部署やテーマに偏っていないか。編集方針がぶれていないか。社内報の目的が「社内の浸透」なのか「コーポレートブランディング」なのかを常に確認できているか。これらを意識することで、運営体制はより盤石なものになります。
運営体制を整えることは、一見地味に思えるかもしれません。しかし、それがしっかりしているからこそ、社内報は継続的に発行され、読者に届き、企業文化を支える力となるのです。
〇9.データで測る社内報の価値──読了率とフィードバック
近年はウェブツールの普及やスマホの定着によって、社内報に対する読者の反応をデータとして把握できるようになってきました。コメントや「いいね」だけでなく、閲覧数や読了率といった数値もすぐに確認できます。ただし、数字を集めただけでは「面白かった」で終わってしまい、社内報の改善にはつながりません。大切なのは、データを次の行動に生かしてPDCAのサイクルを回すことなのです。
社内報の価値は「どれだけ読まれたか」ではなく「どれだけ心に響いたか」にあります。読了率やクリック数は入口の指標としては便利ですが、それ以上に注目すべきは、その後の社員やステークホルダーの行動です。たとえば読後にエンゲージメントが高まったり、部署の取り組みが改善されたなら、社内報は確かに役立ったといえるでしょう。
読了率の集め方にも工夫が必要です。ただ画面を「開いた」だけで読了とカウントする仕組みでは、実際に内容を理解しているかどうかはわかりません。スマホアプリで最後までスクロールした人を「読了者」とする方法や、定期的に簡単なアンケートを行う方法などによって本当の読了率を把握できます。こうした工夫によって、単なる数字がストーリーを持つデータに変わるのです。
インターネットを使った社内報では、閲覧ログやページごとの滞在時間、スクロール率といったデータを確認することができます。紙の社内報であっても、年に数回アンケートを実施すれば、社員の声を集めることは可能です。重要なのは「どう読まれているか」を具体的に把握する姿勢なのです。
フィードバックを集める方法はいくつもあります。コメント欄を用意する、リアクションボタンを設置する、短いアンケートを組み込むといった方法です。特にコメントの内容やその多様性は、会社の文化をどう形成していくかを考える上で貴重なヒントになります。部署ごとの課題を尋ねるアンケートを実施すれば、現場の改善にも直結します。
ただし、フィードバックを集めただけでは不十分です。編集部が分析を行い、次号や社内の方針に反映させてこそ意味があります。「なぜこの部署では読まれなかったのか?」「この反応が示していることは何か?」といった問いを立て、データを解釈していく姿勢が求められるでしょう。
社内報にデータを取り入れることは、単なる数値管理ではありません。社員の声をきちんと拾い上げ、会社の未来をつくる手がかりにすることです。数字の奥にあるストーリーを読み取ることこそ、社内報の本当の価値を引き出すカギになるわけです。
〇10.AIが担う? 未来の社内報について
近年のAIの進化は、社内報の作り方や読まれ方にも影響を与えつつあります。もっとも身近な例は、執筆支援のAIです。情報を自動で検索・整理してくれたり、文章の校正を手伝ってくれたりと、編集作業を大幅に効率化してくれます。今後は社内報の運営にAIを取り入れる企業も増えていくでしょう。
ただし、AIを執筆や編集に使うときには注意点もあります。AIは情報をスピーディーにまとめるのは得意ですが、社員の思いや細やかな感情をそのまま文章に映すのには難しい面があります。便利だからといってAIに頼りっきりになると、「会社の声」や「社員の思い」が抜け落ちてしまうおそれがあるのです。
一方で、AIを活用することで新しい可能性も広がります。たとえば、社員一人ひとりに合わせたレコメンド機能です。部署や役職、過去の閲覧履歴などに応じて自分にふさわしい記事を探し出せれば、社員は自分に必要な情報を効率よく受け取れます。読者体験がよりパーソナルなものになることで、社内報が「読むだけのもの」から「役立つもの」へと進化していくのです。
また、AIによるフィードバック分析は編集部の強い味方になります。どの記事がどの部署に響いたのか、どんな反応が多かったのかを整理すれば、次の企画立案に生かせます。コメントの数を単に数えるだけではなく、AIがその背後にある心理を読み取れるようになれば、社風の改善や意識改革にもつながるでしょう。
もちろん課題もあります。AIの文章には特有の「癖」があり、必ずしも会社の考えをそのまま反映できるとは限りません。編集者はAIが出した文章をうのみにせず、先回りして調整する必要があるわけです。人間が主体となり、AIはあくまでも協力者やサポート役として位置づけることが大切です。
さらに、社内報を一方通行の情報発信ではなく、双方向のコミュニケーションの場と考えるなら、AIは社員の声を集める役割も担えます。日常のやり取りや意見をAIが整理し、社内報に反映させれば、社員は「自分の声が会社に届いている」と感じやすくなります。そのためにも、社内SNSやアプリなどと連携した仕組みづくりが重要になってきます。
忘れてはいけないのは、AIに任せるほど、そこに倫理性やモラルが求められるということです。どの声を優先すべきか、どの意見は注意して扱うべきか――こうした判断はAI任せにせず、編集者が主導していく必要があります。AIの力を借りることで、初めて人と人とのつながりがより豊かに見えてくるのです。
結局のところ、AIを社内報にどう取り入れるかは、人事と同じように「適材適所」がポイントになります。AIを過度に恐れるのではなく、適切に配置していくことで、社内報はこれまで以上に生きたコミュニケーションの場となり、会社の未来を支える大きな力になっていくでしょう。
〇おわりに
「読まれる」社内報についてのお役立ちコラムは以上になります。
こちらのコラムでは、社内報のもつ意味や、その効果、社内報の作り方や、避けたい社内報の例などについて解説してきました。とくに、社内報というものは、「社風の浸透」と「コーポレートブランディング」という、二つの側面をもっていることを認識してください。社内報は、単なるネタづくりの場ではない、と意識しておくことが大切です。
社内報を出す目的は、会社によって実にさまざまなものだと言えます。離職率を減らしたり求職者数を増やす、といった目的のほか、社風を積極的に創造し、開発や営業のこれからの指針を浸透させる、といった役割も果たします。また、ステークホルダーを共有する同業者と事業面で連携したり、あるいはライバルに差をつける戦略を立てる、といったこともできます。
社内報は、単なる社員や部署の自己紹介の場ではなく、つねに外の世界に向かって開かれている、という意識を持つことが大切でしょう。そうすれば、社内報を編集する編集者の側でも、どのようなネタをどんなターゲットにむけて発信すれば良いのか、ということがはっきりしてきます。
では、みなさんも以上のようなファクトを参考にして、魅力的な、そして実益を出せるような社内報を作成してみましょう。こちらのコラムでは、ごく基本的なことにしか触れていませんが、「読まれる」ための最初の一歩としてとらえることで、社内報作りや社内報そのものの意味や価値というものが、ますます豊かになっていくのではないでしょうか。
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